その一言を聞き、望美は満足げに笑みを深めた。

この男が何で先生を探しているのか。

何をしに、この鞍馬まで来たのか。

…先生を見つけて、何をする気なのか…。

問い詰めたいことはたくさんあった。

だけれど、その前に望美にはやるべき事がある。

――…この男の隙を作ること。

で、なければ、最悪と思われるこの状況から脱することは難しいだろう。

あまり長引かせれば、愛しい人が戻ってきてしまう。

…その前に、ケリをつけなければ…。

愛しい人が、危険な目にあうかもしれない――…。

望美は笑ったまま、ゆっくりと口を開いた。

「それを聞いて、どうするの?私のように脅すの?それとも…。」

笑みを浮かべ、のんびりと言っているのに、望美の目は笑ってはいない。

ただ、剣呑な光を湛え、男を見つめる。

「それとも、この剣で、殺すの…?」

望美は冷たい笑顔で、静かに尋ねた。

「何だと!?『人』じゃあるまいし、俺が同族を殺すわけがないだろう!」

何故か、望美の言葉に男は怒り、声を荒げた。

だか、望美はお構いなしに、男を追い詰めるため、言葉を紡ぐ。

「じゃあ、脅すんだ。」

すかさず突っ込めば、男が激昂した。

「…貴様っ!俺を愚弄するのか――っ!」

望美に向かい、男が刀を振り上げる。

――…今だ!

咄嗟に望美は体を転がし、仰向けになり、男の剣先を視線で追う。

何処を狙ってくるのか、どうやってそれを避けるかを瞬時に判断する。

そして――…。

男の動きが止まった。

「剣を下ろすか?しからば、斬る。」

男の咽喉元にぴったりと短剣を突きつけ、リズヴァーンが静かに言い放つ。

殺気をそのまま声に乗せ、さっきの望美と同じ位置、急所である首筋に刃を当てていた。

リズヴァーンの声はいつもと変わらない音なのに、耳には突き刺さるほど冷たく聞えた。

「…リズ…ヴァーン…?」
「先生…!」

困惑する男の声と、望美の驚きの声が、同時に上がった。

風と共に現れたリズヴァーンが、男の背後に立ち、ちらりと望美へ視線を向ける。

「…望美。大事ないか?」

緊張を孕んだ声に、望美は体を起こしながら、しっかりと肯いた。

「――…リズヴァーン、俺がわからないのか?」