穏やかな日差しの中、望美は縁側で一人、船を漕ぐ。

それは、睡眠不足か、陽気のせいか。

夢と現とを往復しながら、その体を柱に預けて、うつら、うつらと頭を揺らしている。

その膝に、畳み掛けの愛しい人の衣をかけながら…。

…あ~。もうすぐ先生が帰ってくるのに…。

そう思いながらも、光の暖かさと、眠気に、望美は瞼を開けることが、出来ずにいた。

…洗濯物畳み掛けだし…。寝ちゃったら、先生、起こしてくれるかなぁ…。

微かな期待を込めて、そんな事を考えていると、『しゅん』と、風を切る音が聞えた。

…あっ、帰ってきちゃった…。

本当なら、笑顔で迎えてあげたい、と思っている。

『お帰りなさい』と、ちゃんと言いたい、とも思っている。

でも、優しく抱き上げてもらって、運ばれるのも好きだから。

お姫様抱っこをされて、ゆらゆら揺れるのも、心地よくて好きだから。

なかなか、目が開けられない――…。

…先生、ゴメンね…。

音にならない言葉を、望美が胸の中で呟いた。

穏やかな笑顔を湛え、微かな寝息をたてながら…。

音もなく近づく気配を感じつつ。

『本格的に寝ちゃおうかな』と、望美はそんな暢気なことを考えていた。

だが、一瞬のうちに、その考えは消え去ることになる。

日差しを遮る長い影が、望美へと伸びた――…。




≪因縁の対決≫




「おい、起きろ。」

聞こえてきた声は、望美の好きな声ではない。

深い響きも、優しさもない声に、望美はぱちっと目を開く。

庭には、一人の男が立っていた。

日差しを受け、輝く金色の髪。

見下ろす瞳は、見事なまでに青い。

大好きな人と同じ色を持つ者が、数歩離れた庭から、望美を見つめる。

でもその人物は、望美の待ち人とは似ても似つかない、まったくの別人であった。

「…誰…?」

望美は驚きで目を見張りながら、ポツリと呟いた。

同時に、男が持っていた太刀の柄に手をかける。

「…女、お前は何者だ…?」

殺気を纏い、男が鯉口を切った――…。