「無論。お前ほど、無垢な心を持つものはいないと思うが?」

戯れるように、艶やかな髪を梳きながら、いとおしそうに囁けば、望美が口を尖らせる。

「じゃあ、私が……。」

そこまで言って望美が、言いづらそうに言葉を濁すから、私は不思議そうにその顔を窺った。

「……どうした?」

尋ねると、その目を合わせないまま、小さく望美が恥ずかしそうに呟く。

「――…私が、先生とこんな風になって、うれしがっていても、穢れてないんですか?」

「……喜んで、いたのか。」

「それは……当たり前じゃないですか。好きな人に大事にされるんですよ?……ものすごく、恥ずかしいけど。」

小声で囁いた言葉のとおり、望美は自分の言った言葉に、耳までも赤くしていく。

その姿が、あまりに愛らしくて、抱きしめた腕に力を込めた。

「そうか。だが、それでもお前が穢れているとは思えぬ。いや、私が汚したような気もするが……。」

小さく笑いながら言うと、望美が頬を膨らませた。

「……先生に汚されてなんて、いないもん。」

子供のように言う望美に、私は苦笑しつつ、それでも言葉を重ねる。

「お前は、いつでも、どのようなときでも、真っ直ぐに生きていく。それは汚れなき心を持っているからだ。」

「そんなコト……。」

「そうでなければ、私はいつ、闇に落ちても不思議はなかっただろう。」

穏やかに、しみじみと事実を口にすると、望美はゆっくりと顔をあげる。

その顔は、悲しそうな、困ったような笑みを浮かべていた。

「それは、先生の心が強かったからで、私のことは関係ないですよ。」

「そう思うか……?」

「だって、いつでも、私は先生に助けられて、大事にされて……。だから、今、ここにいるんだし。」

はにかむように小さく笑みを深める望美に、私は静かに口を開く。

「――…私は、お前を大切に出来ているだろうか?」

何処となく零れる言葉が、頼りないもののように自分でも感じたが、なるべく穏やかに尋ねると、望美は一気に満面の笑みを浮かべた。

「はい!もちろんです。」

その笑みに、正直なところ、泣きたくなるほどの幸福感を覚えた。

胸が詰まる。

それは、うれしさなのか、安堵なのか、よくわからない。