-Vermillion-

 バスの一番後ろの席に並んで座り、
 話しながら鞄に止まった蝶を見ていた。
 美影がペットになってから三日目。
 周りもそれに慣れたのか、何も言わなくなった。
 ずっと一緒にいると言っても、
 私が話しかけないと喋らないし、時々存在すら忘れる。
 
 何の為に私について来るのだろう?そう言えば確か地獄蝶とか何とか……
「ねぇ、地獄蝶って知ってる…?」
「知らねぇ。」
「地獄蝶かどうかは知らないけど、人の死とか霊をイメージさせるから、
 そう呼んだりもするんじゃない?おばあちゃんの受け売りだけど……」

 蝶はある所で復活の象徴として、またある所で魂や不死の象徴とされる。
 黒い蝶には仏が乗っているとされ、夜の蝶を仏の使いと呼んだりもする。

[春に最初に白い蝶を見ると、その年の内に家族が死ぬ]
[蝶が仏壇や部屋に現れるのは死の前兆] 等という言い伝えもある。

 人の死や霊に関連する観念がある。
 美影はもしかしたら、この世界ある地域で地獄蝶と呼ばれているのかも。
 話せるのはきっと私が蝶の生まれ変わりか何かだからだ。
 昔からよく懐かれるし。

 私が勝手に納得した時、
 バスは中央線余山駅前、つまり五丁目センターに到着した。
「熱いな。この時間はちょい早いだろ。」
「十時って誰が決めたんだっけ?いいから黙って歩きなさいよ。」
 
 加奈と爽が毎度言い争っても
 三人でこうして集まるのは、きっと二人が両想いだからだ。
 私は勝手に納得すると、微笑ましい思いで二人の間を歩く。