加奈に事件の事を
話すべきかどうか考えている内に、
あっという間に昼休みになった。
いつもと変わらず屋上で
爽と加奈を待ちながら、
少し曇った灰色の空を見上げる。
「水野はいいよな、
毎日兄貴が弁当作ってくれて。」
「爽も、お弁当でしょ…?」
「昨日の残り物な。
作り立ての物が食いたいよ。」
「うん…真朱に、感謝しなきゃ…」
「あぁ。お、蝶だ!」
そう言われて顔を上げると、
大きな烏アゲハが
ふわりふわりと舞っている。
そっと手を伸ばすと
蝶は指先に止まり、
ゆっくりと羽を動かした。
「すげぇ!
本当よく蝶に好かれるよな。」
「うん…」
小さい頃から、
よく蝶を指先に止めて遊んでいた。
蝶は決して私を怖がらない。
だから私は、蝶が大好きだった。
「お待たせー。
ゴメン、売店が並んでてさ。
食べよう!」
菓子パンを三個持った加奈が合流した。
ご飯を食べながら、
こっそり加奈を見る。
「朱乃、何か話したい事あるの?」
視線に気づいたのか、
加奈が直球で聞いて来た。
「実は…金曜日、
事件の現場を、見たの…」
二人は手を止めて、
同時にこちらを見た。
眉間に深い皺が寄っている。
「事件って……
例の余山連続殺人事件?」
「それ、ヤバくねぇ?」
「警察には行ったの?」
「ポリは何だって?」
「うん、それがね…」
事情を聞き終えた二人は、
狐に抓まれた様な顔をした。
重たい空気が漂い始める。
「狗ねぇ…」
「犬かぁ…」
「狗なの…」
暫くの沈黙の後、
爽が徐(おもむろ)に口を開いた。
私も加奈も顔を上げる。
爽はテストの点数こそ低いものの、
頭の回転は速い方だ。
「あ…あのさぁ俺、
気づいた事があんだけど――」

