「おはよー。・・・!!」

翌朝。ぼっこり腫れたアタシの目。仲良しの虹夏もびっくり。

「・・・一体、羽衣に何が・・・??」
「・・・わかんない。」
「・・・へ?」

虹夏は、目が点になっていた。

そして、アタシは声もかれていた。

「・・・あぁ、今日アタシ、早退するから授業のノートよろしく・・・」
「体調悪いの?休んじゃったらよかったのに。」

もう、涙がでてきてた。溢れる寸前だった。

「・・・トイレ行って来る・・・。」
「下痢?もう、無理しちゃダメじゃん。」
「うちのママ、きっと無理しろって言うから。」
「きっとって・・・。言われてないの?」
「・・・言えないよ・・・」

ママは、死んだんだっ!!!!って叫んでやりたかった。

でも、下を向いてただただトイレに走った。

ドンッ!!

誰かにぶつかった

「・・・すいません・・・」

相手は、ポケットに手を突っ込んでアタシを覗いた。

「・・・坂本・・・か?」

倫太郎先輩・・・!!・・・最悪こんなときに会うなんて・・・。

「・・・泣いてんの?お前・・・」

アタシは首を横に振り、「失礼します」と言って再びトイレに走り出した。

3歩走って立ち止まった。足、ひねってる。

一気に力が抜けた。アタシはしゃがみこんだ。

倫太郎先輩は急いでアタシのところに来た。

「どうした!?」

「ひ・・・」

「ひねったか・・・。」

『ひ』しか言ってないのにわかってくれた。

先輩は、アタシを抱き上げようとしたけど

「歩けます」

といった。

「じゃあ、肩貸す・・・。」

「すいません・・・。」

「1,2の3」

そうして、片想い相手に保健室に運ばれた。

幸せな気持ちに勝る、切ない気持ちと情けない気持ち。

「センセ、怪我人」

「あら~!?どうしたの!?」

「ひねったらしい。足首を。」

「あらあら、大変!!腫れてるじゃない!!」

先生は、あわててガチャガチャと奥の部屋で準備を始めた。

「・・・ホントにすいません。」

「・・・いいサボリの理由が出来た・・・。」

・・・うそだ。知ってるんですよ?先輩は、確かに問題児です。

でも、授業をサボったりしない。でしょ?

ずっと見てきたもん。知ってるもん。

「倫太郎君は、もう戻りなさい。」

「ちぇ。」

「どうせ、また放課後会えるでしょ。」

先輩は、不思議な顔をした。

「センセ、今日はリフレッシュデーで、部活はないじゃん。」

「ハンド部は、あるの。羽衣さんのお母様が・・・」

先生、お願い・・・。言わないで・・・。同情されたくない・・・。



でも、やっぱり倫太郎先輩は違っていた。アタシの頭をポンポンとたたくと

「・・・坂本、お前強ぇ。・・・すげぇ。・・・」

といった。

同情なんて関係ないって顔をしていた。

しばらくして、愛海さんが迎えに来た。

「あら、倫くん!!」なんていいながら。

「悠介に、走って来いって伝えておいて?」

「了解です。」

アタシは、倫太郎先輩に一礼して車に乗った。

倫太郎先輩は、見つめていてくれた。

だいすき・・・。って

そう言いたかった。



葬儀場では、愛海さんが準備の手続きをしててくれて準備が着々と進められて

いた。

「羽衣ちゃんは、お化粧してきたら??」

「そうですね。・・・あはは。ひどい顔・・・。」

そういって、化粧品を持って化粧室に向かった。

いつもより、厚めに化粧した。

腫れた目をごまかすために。

自分で言うのもアレだけど、気持ち悪い。

でも、同情はされたくないし。これで間違いじゃない。

ご飯を食べたら、悠介と愛悠良も帰って来ていた。

明るく話しかけてくれた。

その姿が暖かくて…

切なかった。

「お前、羽衣足は?」
「あ…うん。大丈夫だよ…」
「葬式終わったら、病院行って来いよ。」
「うん。そうする…。」

悠介は、顔が引きつった。

「羽衣、ケバくない?」

「そ…そぉ?」

「まぁ、気にしないだろ。誰も。」

…やっていけないよ…。

いつの間にか、外は暗くなっていた。

気づいたら、悠介がいない。

愛悠良もいない。

二人を探しにロビーに来た。

小学生時代にお世話になったハンドボールクラブの小学生…。

御通夜に来てくれた人たちにお茶を運んでいた。

男子ハンドボール部に入部予定の新中1…。

受け付けをしていた。

きっと、愛悠良と悠介が呼んだんだろうな。

ありがたいなー…。

棺桶の中のママを見ることにした。

「ママぁ…。」

寝てるみたいだった。

パパと妹が事故で死んだときより今はずっと怖い。

怖くてたまらない。

この先、アタシはどう生きればいいんだろう。

「家族、いないの?可哀想ね。」って言われながら生きて行くのかな…。

「心配ねぇよ…。」

振り向くと、悠介がいた。

「だからさ、俺んちに来りゃあいいんだよ」

「そんな…迷惑かけられないよ…」

葬儀のこともほとんどしてもらった。

もう十分だよ…。

「来ない方が迷惑だ。」

「何言ってんの?」

「遺書があった。お前んちの母親の部屋に。」

悠介は、手紙をアタシに渡した。

そこには、今までのことが綴られていた。

パパと出会ったこと。

アタシが生まれて、名前をつけたこと。

真希が生まれて、名前をつけたこと。

パパと喧嘩が続いたこと。

離婚したこと。

パパと真希が死んだこと。

…そこからは、アタシの未来について書かれていた。

『羽衣は、真希と比べて昔からしっかりした子です。
きっとパパににたのかな?
顔は、真希と同じでママにとてもよく似ています。
鏡を見たら、真希とママがいます。人と接すれば、パパがいます。
羽衣は、一人じゃない。
羽衣を信じてお願いがあります。
羽衣が自立するまでにママが死んでしまったら、愛海ちゃんにお世話になってください。
ちゃんと、自分でお願いしてね。
お金とかは、ママの部屋に二冊通帳があります。
ママのと羽衣のがあるから、それで暮らしてください。
どうか、これからも幸せに暮らしてください。
結婚おめでとう。


坂本舞』

「結婚したとき、渡そうと思ってたのかな?」

「…書いてるとおりだよ。」

アタシは、悠介を見た。強くてなんかかっこいい眼差しだった。

「約束ちがうって呪われたら、こっちがたまんねぇよ」

「そーだよね…」

そう言って頭を深く下げた。

「これから…よろしく…」

「頼みながら、泣いてんじゃねぇよ。バカ。」

「だってぇ~」

こんな幸せ、久しぶりだょ…