「ばか!何で、あんな事言うの?」
帰り道、悠介に説教した。ありえない・・・。アタシには、憧れてる人がいるのに。
「後輩に、説教かよ。あぁ、ダリぃ先輩。」
ダル・・・っっっっっ!!!!
「変な疑いを駆けられんじゃん!!」
「いいじゃん。『はい。そうですね。』ってきいときゃいいんだよ。」
テキトー。適当すぎるよ。こっちの身にもなってくれ。
「いい?悠介。アタシには、もう憧れの人がいるの。」
アタシが、「だから」と言わない間に、悠介が口を挟んだ。
「誰?」
「・・・へ?・・・」
「お前の好きなヤツ。」
言ってもいいのだろうか・・・。アタシの憧れの人は、坂本倫太郎先輩。ハンドボール部の副キャプテンでエース。
「え・・・っと・・・」
「言えないわけ?」
「ハンドボール部って知ってる・・・よね。」
「お?おう・・・。愛悠良がやってるから。」
だよね・・・。と心でつぶやいて、また、考えた。どうしよう・・・。
「言わねぇよ。」
「え?」
「言わねぇって。知りたいだけ。」
信用していいのかな。
「絶対、他人に言ったりしない?」
「うん。」
じゃあ、言おうかな・・・。
「アタシの好きな人は、・・・。倫太郎先輩・・・。」
「・・・へぇ?・・・」
アホみたいな顔。
「何よ。その顔は。」
「え・・・。いや・・・。以外だった。」
「そう・・・かな。」
「うん。あんな、チャライ人が好きなんだ。」
「優しいから・・・。」

そう。倫太郎先輩は、一見チャライ。でも、優しい。






あれは、1年位前。ハンドボール部に入部したばかりだったころ。2ヶ月近くで、小学校からやっていた子たちも次々とやめていった。

やがて、女子の同級生はいなくなり、あたしが、一人だけに取り残された。

『雑用は、1年の仕事』。アタシは、一人で必死に先輩たちに尽くした。

ある日、飲用水を汲みに、給湯室に向かった。その日は、雨が降っていて、床が濡れていた。

でも、早くしないと、次の水分補給に間に合わない。アタシは、廊下を走っていた。

カーブしたとき、つるりと滑り、足を捻挫した。


それでも、先輩の荷物を持って、走って体育館に向かった。


そのときだ。

そのとき、14個のバッグが、軽くなった。振り向くと、倫太郎先輩だった。

「女子って荷物多いよな。何が入ってるんだよ・・・。」

「あ・・・あのぉ・・・。」

うまくしゃべれなかった。緊張していた。・・・いや。怖かった。学校1のヤ
ンキーを目の前にしてたんだから。

「あの・・・持ちます。」

「足。ひねったとこ、みてた。」

恥ずかしくって、赤面した。

「大丈夫です。・・・仕事・・・ですから。」

「無理無理。俺に筋トレさせろよ。」

「・・・」

「優しいだろ。俺。」

「・・・は・・・い・・・。」



そのときから、ずっと憧れてた。きっと