剣舞のような太刀裁きに、望美は目を奪われた。

(…きれい…)

初めて神泉苑で見たときと同じ、その美しさに感動する。

切り株に座り、頬杖をつきながらも望美は、ただ見惚れていた。

(でも…)

心に浮かぶ思いに、だんだんと考え込んでいく。

「望美、何を考えている?」

そう聞く、リズヴァーンの剣は、鮮やかに弧を描いて、空気を斬る。

話しながらでも、剣が止まることはない。

足裁きも滑らかに、太刀を振るう。

そんなリズヴァーンに望美はとんでもないことを言い放つ。

「いやらしいこと…です。」

ぴたっ

その一言に、剣先が止まる。

リズヴァーンは望美に背を向けたまま、固まった。




≪災いを転じて福となす?≫




「先生の髪を、今朝『くしゃくしゃ』にしちゃったなぁ…とか、先生の指は優しかったなぁ…とか、背中の爪あと、痛くないのかなぁ…とか…。」

動かないリズヴァーンをよそに、望美は話し続ける。

シュッ、と風を斬る音と共に、リズヴァーンは太刀を鞘へとおさめた。

「先生の体って、あったかかったなぁ…とか…。」

「望美。」

リズヴァーンが振り返ると、翡翠色の瞳と目が合った。

心なしか、望美の頬は赤い。

ふっと笑顔を浮かべながら、リズヴァーンは望美を見つめた。

「…誘っているのか?」

「違います!」

ゆっくりと、リズヴァーンは望美のもとへ歩みを進める。

「…今朝のでは、足らぬか?」

笑顔で囁くその声を耳にして、望美は今度こそ、真っ赤な顔をして勢いよく立ち上がった。

「っつぅ…。」

腰に走る鈍痛が、今朝の情事の激しさを物語っている。

「望美…。」

さすがに、リズヴァーンも、心配そうに声をかける。

だがそんなことをよそに、望美は腰に手をあて、何事もなかったように、仁王立ちになった。

「これは、嫌がらせです!!」

きっぱり、はっきり、言い放つ。