「神子!」

突然、黒い外套に望美は包まれた。

ザシュッ!

終わりは、一瞬で来た。

見上げるとリズヴァーンが望美を腕に抱き、微笑んでいた。

「先…生…?」

「これで、終わりだ。神子。」

そういうと、そのままリズヴァーンは静かに膝を折った。

リズヴァーンの背後に、剣を構える総大将の顔が見えた。

望美は、時の終わりを悟った。

望美は膝をつき、リズヴァーンの背に両手を回し、そっと抱きしめた。

望美の手には、暖かいものが触れては流れていく。

「先生…。」

「神子、大事…無いか?」

いつものように、優しい声で、リズヴァーン尋ねた。

「はい。」

「そうか。」

二人には静かに微笑みあった。


望美は願った。

終わらない戦いを―

リズヴァーンは望んだ。

仲間の手によって戦いを終わらせることを―

そして運命はリズヴァーンを選んだ。

「先生。これが終わりなんですね。」

望美は、穏やかに微笑む。

「いや、違う。終わるのは私だけだ。」

囁かれるその声に、望美はリズヴァーンを見上げた。

「先生…?」

「神子。戻りなさい。お前が選ぶべき運命に。」

ゆっくりと、リズヴァーンは望美を体から引き離す。

「お前はもう、この運命には来てはいけない。」

そして、望美の瞳がその蒼い瞳で見つめられる。

その瞳は宝石のように美しく、…冷たかった。


一瞬、望美は不思議な感覚に囚われた。

『この世界は夢なのだ。』

愛する人の声が、心に、頭に響いた。

「ゆ…め…?」

望美の瞼がだんだんと、重くなる。

「そうだ。」

望美の手のひらに馴染みのあるものが渡された。

(私はこれを知っている…)

「目が覚めれば、またお前は仲間と共にある。」

囁くリズヴァーンの声は穏やかで、優しかった。

「先生…は…?」

「目が覚めれば、また、会えるだろう。」

「ほん…とに…会え…る?」

望美の声が小さくなる。

「約束しよう。彼の地で再び会おう。」

「やく…そ…く。」

「戻りなさい。」

望美の握ったものが、光を灯す。

「…望美。」

リズヴァーンの唇が望美に触れた。

初めて聞く、自分の名前を呼ぶ声。

初めてのリズヴァーンの唇に、望美の心が、息を吹き返す。

(これは…暖かい…想い…。)

「お前のしあわせを願っている。」

望美が光に包まれる。

「私は、幸福だった。」

最後に耳に届いた言葉を、望美は胸に抱いた。

(私も…しあわせ…に…。)

言葉にならない想いと共に、望美は消えた。