「せっ、先生!?」

すっぽりと、はまってしまえば、もう動けない。

しかも相手は酔っ払い。

手加減なんてしてくれるはずもなく…。

きつく抱きしめられた。

「…望美、私は酔っているのであろう?」

確認するかのように囁かれ、望美はどうにか顔をリズヴァーンに向けた。

「そう、ですから、…離して下さい。」

体を捩ろうとも、びくともしない腕。

苦しいながらも、きちんと望美は返事を返した。

「ならば、酒の勢いと言うものがある。」

「………はい?」

(…酒の勢いって何?)

何かヤバそうな予感はするものの、望美は動くのを止めた。

すると、望美を包んでいた腕が緩んだ。

(良かった。これでとりあえずココから出れる)

そう安心した瞬間、顎を摘まれた。

そして近づく、真剣な顔。

「え?」

軽く口を開けていた望美に、容赦なく降りかかる口付けの雨。

いや、雨なんて生易しいものではない。

まさしく、嵐。

舌を絡めとり、口内を貪るように交わされる。

それは深く、激しく、…喰われるかと思うほどの口付け。

「…んっ。…ふぁん…んぁ。」

息が苦しくなりつつも、望美は逆らうことなく、リズヴァーンの口付けを受け止めていた。

「…んぁ…ん。」

鼻を抜ける甘い音が、望美の耳にも届けば、静かに離れていく暖かい唇。

望美はリズヴァーンに、もたれかかりながら大きく息を吸った。

(先生。お酒の味がする)

酸欠状態の頭でそんな事が思い浮かぶ。


『酔っ払いは何をしでかすかわからないわ』


そう怒りながら言っていた母の声が、聞えるようであった。

(本当に、そう思うよ。お母さん…)

優しく回されているリズヴァーンの手が、ゆっくりと望美の体を這い始めた。

それに気付き、さすがに望美は慌てた。

「ちょっ、待ってください。」

(ここ、玄関ですよ~!?)

望美の抗議の声も聞かずに、リズヴァーンがパジャマの中へと、その手を入れてくる。

背中を撫で上げるその指先に、思わず体が反る。

そして、目の前には…

「先生っ!」

いつもの、愉しそうな瞳を湛えたリズヴァーンが見えた。

ただ、その瞳の奥にある炎は…

…見なかったことにしたい。

この展開の先が見えてしまいそうになるから。