熱に浮かされているのかと思ったのだ。

だが、自分と比べて少しだけ温かい気もするが、まず熱はなさそう。

「先生、どっか痛いとことかあります?」

(怪我とかしてないよね?)

望美は聞きながら、リズヴァーンに抱きつくようにして調べてみた。

が、何の傷も、服の破れも見られなかった。

そして、鼻を微かにかすめた、ある匂い。

(これは…。まさかっ!)

ある事に考えが行き当たり、望美はびっくりして、目を丸くした。

「望美、大事ないか?」

今更ながら、頭の上から心配そうな声がして、望美はリズヴァーンを見上げた。

そしてその瞳が微かに潤んでいるのを見て…

望美は確信した。

「…先生。酔ってます?」

とりあえず、そう聞いてみた。

今晩は、会社の人たちとの飲み会があると聞いていたし、この匂い。

そして、反応の鈍さと、何故か不機嫌な態度。


『酔っ払いはすぐ、不機嫌になるから、イヤよね』


そう言っていたのは、母だった。

間違いない。

完璧に酔ってる。

…と、思う。

「…そう思うか?」

どこか不機嫌そうに聞き返してくるリズヴァーンを、望美は不思議なものを見るような目で見つめた。

正直なところ、酔っている人をこんなに間近で見たのは初めてだった。

あの世界でも、酒宴はあったが、酔っ払いは望美に近づくことが出来なかったのである。

…目の前にいるこの人のおかげで。

だから、余計に驚いてしまう。

(酔っ払いから身を守ってくれていた人が、酔っ払うなんて!?)

「お前は、私が酔っていると?」

静かに問うリズヴァーンの声に、望美は真剣な顔を見せた。

「先生は、酔ってます。」

今度ははっきり、そう言い切った。

「…そうか、酔っているように見えるのだな。」

リズヴァーンは微かに俯きながら、そう呟いた。

(見えるじゃなくて、酔っているんです!)


望美はこれからのことを考えながら、リズヴァーンの腕を引いた。

「とりあえず、寝室へ行ってください。」

(え~と、その後、お母さんはどうしてたっけ?)

あぁ、そうだ。

まず、お父さんをお布団まで運んで、上着と、ネクタイを脱がしてた。

それから、水を用意して…

などと思い出しながら、廊下を数歩進んだところで、何故か引いていたはずの手を反対に引かれた。

そして、そのままリズヴァーンの腕の中へ。