望美には、その言葉を嫌う自分を『知っていて』リズヴァーンが口にしたとしか思えない。

『八つ当たりの、仕返しだ。』

そう思い、一瞬ムカッとするものの、望美には、もう怒り続けることも、すねることも出来なかった。

望美がリズヴァーンの笑顔に、その言葉に、胸をいっぱいにしたことを、見透かしているようで。

リズヴァーンが望美のすべてを『知っている』ようで。

『やられた!』

そんな思いと共に望美は、悔しさと、いたたまれなさと、愛されているうれしさをかみ締めた。


「…先生の鬼…。」

最後の悪あがきのように、小さな声で悔しそうに望美が呟くと、リズヴァーンが苦笑しながら返事を返した。

「知っている。」

そう一言言うと、ゆっくりと望美の頭に手を置き、軽く撫で始める。

望美の大好きな行為。

そんな事をされては、望美はまたたびに酔った猫のように、心が溶けていく。

『先生には…勝てない…』

しみじみ、そう思いながら、その心地よさに、望美は目を閉じた。

リズヴァーンの優しい行いに、望美は素直になるしかなかった。

「…先生、大好き…デス。」

独り言のように呟く望美に、リズヴァーンの笑みが深くなる。

「知っている。」

その声は、柔らかかく、愛しさを含んでいた。

望美は仄かに頬を染めながら笑みを浮かべ、ゆっくりと目を開いた。

リズヴァーンに向かい、望美は両手を広げる。

そして今度は、リズヴァーンをはっきりとその目に映して、呟く。

「先生、大好き。」

その言葉と共に、リズヴァーンに抱きつく。

望美の背に、大きな手がやさしく回される。

望美はリズヴァーンのすべてを抱き、その感触を確かめる。

『ここに、先生がいる。』

この『現実』が望美のすべて。

しあわせな『時間』。

それが、二人のすべて。

時間を忘れて、二人は抱きしめあう。

まるで、それが『二人の理』のように…。



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