すると、ふとリズヴァーンが柔らかな笑みを浮かべた。

「お前は、私のすべてをもう知っている。」

「え?」

どういうことかわからない望美は、その瞳を大きく開く。

「お前だ。望美。」

「私?」

「そうだ。お前が私のすべてだ。」

笑顔の中に、真剣なまなざしを宿しながら言われるその言葉に、望美は赤くなることさえ忘れ、食い入るようにリズヴァーンを見つめた。

呆けているような顔をする望美に、なおも、リズヴァーンが口を開く。

「私の身も心も、お前のために在る。それが私のすべてだ。」

その言葉が、望美の胸を突く。

異世界で、同じようなことを言われたことがあったが、その時はこんなにも柔らかい笑顔を向けられることはなかった。

『時間は関係ない』

まさにそう。

愛し、愛されていれば。

そのしあわせそうな笑顔があれば。

…それが世界のすべて。

そして、その笑顔こそが、リズヴァーンのすべてを物語っている気がした。

望美は、時間を忘れ、その笑顔を心に焼き付けた。

「お前の心こそ、私の未来。」

そういうと、リズヴァーンが望美に顔を近づけた。

そして、その唇に、軽く口付けを落とした。

望美ははっとして、空色の瞳を見つめると、そこに何故か楽しそうな光が見えた。

「機嫌は直ったか?」

その言葉に、体中がかっとなる。

と同時に、望美は声を荒げた。

「せっ、先生!私は真剣に話をしてるんですよ!」

「私も、真剣に答えたが?」

何か問題でもあるのかと、とぼけた顔をされ、望美はつい拳を振り上げそうになった。

『一瞬でも見惚れた自分が憎い~!!!』

そう思いながらも、リズヴァーンの言葉に嘘はないことは誰よりも望美は一番良く知っている。

あの笑顔も、言葉も、自分だけに向けられた真実。

だから、余計に冷静ではいられない。

『あの笑顔であの言葉は、反則だよ~!!!』

うれしいやら、腹の立つやらで、何の言葉も出てこない。

「う~~~っ!」

真っ赤な顔をしながら、いたたまれなくなっている望美を、愉しそうにリズヴァーンが見つめる。

「望美、早く課題を終わらせなさい。」

リズヴァーンに、微かに意地の悪い笑みが浮かんだ。

望美はそれに気付かない。

「…何でですか?」

うなるように声を低くして、望美がリズヴァーンを悔しそうに見上げる。

「もうすぐ、お前を送っていかねばならん。」

今までの望美の話がなかったかのように、しれっとした顔でリズヴァーンが、時の終わりをほのめかす。