「では、どうしたいのだ?」

リズヴァーンは読んでいた参考書を横に置き、真剣な瞳で望美を見つめた。

「…わかりません。」

そう言いながら、望美はその視線から逃れるように、ぷいっと顔を横に向けながら、口を尖らせた。

わかるはずもない。

時間をのばすことなんて出来るはずもないんだから。

出来ないから、こんなにも子供のように駄々をこねているんだから。

望美には、ふと目に入る掛け時計すら、…恨めしい。

「…望美、こちらへ来なさい。」

リズヴァーンが、ふてくされている望美に声をかけた。

望美は、一瞬どうしようかと迷ったが、リズヴァーンのもとへは行かずに、ただ、口をへの字に曲げて、時計を睨んでいた。

そんな頑なな様子に、リズヴァーンはため息を一つつくと、ゆっくり席を立ち望美に近づく。

そして望美の前に膝をつき、その空色の瞳に望美を映した。

「お前は、…私と共により多くの時間を過ごしたいと、思ってくれるのか?」

優しく静かに問われ、望美は素直に『こくん』と頷いた。

「…もっと、先生と一緒にいたいんです。」

すねたような望美の口ぶりの中に、切なさが含まれているようで、リズヴァーンの目が細められる。

そして、その大きな手が、望美の頬に添えられた。

「…望美。私もだ。」

いとおしそうに囁かれる自分の名前に、望美は少しだけ口元を和らげた。

「だが、例え共にいる時間が増えたとて、私たちの時間はあっという間に過ぎよう。」

「…何故です?」

触れられる手の暖かさに、ぎすぎすしていた望美の心が少しだけ、柔らかくなる。

「しあわせな時は、風のように過ぎ行く。そのことに、時間という概念は関係ない。」

はっきりと言い切られるその言葉に、望美は一瞬、声を詰まらせる。

「…先生は、今のままがいいんですか?」

リズヴァーンのもっともな言葉に、つい、納得しそうになって、望美はすねたような声を出す。

「これから先、長い未来を共にいられるならば、今は限られた時間を大事にすべきではないのか?」

諭すように優しく言われる言葉は、望美の心を柔らかく包み込んでいく。

「私たちの時間は、今がすべてではなかろう?」

「…でも、もっと先生のことを知りたいんです。」

もっと、いろんな顔が見たい。

もっと、いろんな話をしたい。

もっと、もっと、二人でいることを感じていたい。

「その時間が欲しいんです。」

望美は真剣なまなざしをリズヴァーンに向けた。