一分は六十秒で。

一日は二十四時間で。

そんな決まりきったことが腹立たしい。

たとえ、時空を超える力があったとしても。

たとえ、龍神に愛される者だとしても。

それは変えようのない『人の理』

そのすべての時間を、先生と過ごしたい。

もっと、先生を知りたい。

もっと、私を知って欲しい。

そう願っているのに、なかなかうまくいかない『現実』

その指先で、頬に触れて欲しい。

その手で、この髪に触れていて欲しい。

その腕で、私を抱きしめて欲しい。

その体で、私を受け止めて欲しい。

そう思っているのに、あっという間に『時間』は過ぎていく。




≪時の長さ≫




「…時間が足りない。」

望美は拳をテーブルの上に置いて悔しそうにそう呟いた。

「すぐに、終わると言ってはいなかったか?」

ソファーに座り、望美の貸した参考書を読んでいたリズヴァーンが、視線を向けてきた。

「課題のことじゃありません!」

望美は目の前にある、教科書やノートに目もくれず、リズヴァーンを上目遣いで睨んだ。

「では、何のことだ?」

「…私と先生の時間のことです!」

異世界でリズヴァーンと出合って、恋に落ちた瞬間に、彼は姿を消した。

追いかけて、追いかけて、やっと隣にいることが許されたと思ったとたん、望美達はこの世界に戻ってきてしまった。

そして、日常を暮らしている。

それが、すごく幸せなことなのは知っている。

でも…気に入らない。

「…どういうことだ?」

リズヴァーンが、不思議そうに望美を見つめる。

「先生と一緒にいられる時間が、少なすぎると思うんです!」

異世界では、二人きりの時間なんて、あんまり持てなかった。

この世界では、先生は仕事をしていて、私は高校生。

会えるのは、夕方の少しの時間と、休みの日だけ。

一緒にいる時間が限られる。

それが、…気に入らない。

「もっと、先生と一緒にいたいのに、すぐに帰らなきゃいけなくなっちゃうんですよ!」

「だから、時間が足りないというのか?」

「そうです。」

望美は恨めしそうにリズヴァーンを見つめた。

完全に八つ当たりなのは望美もわかっていた。

でも、あと一時間もしたら帰らなくてはいけないと思うと、どうしても『時間』に腹が立つ。

『送っていこう。』

その言って、帰る時を告げるリズヴァーンに、どうしてもその矛先が向いてしまう。