おまけ


将臣がダイニングに入っていくと、微かに甘い香りが広がっていた。

「兄さん、帰ったのか。」

台所から、譲が顔を出す。

また、望美に何か作っているらしい。

「まぁな。」

そう言いながら、手に持っていた空の弁当箱を譲に渡した。

「望美とリズ先生が礼を言ってたぜ。」

「そうか。」

少しうれしそうな譲を横目に、将臣は椅子に座り腹の底からため息を付いた。

「は~~~っ。」

疲れたにしては様子のおかしい将臣に、譲が怪訝な顔をする。

「先輩たちとなんかあったのか?」

「い~や。なんにもねぇよ。」


そう、何にもなかった。

海では、望美とリズヴァーンも、いちゃつくことなく普通に三人で楽しんだ。

ただ、望美の肌に見つけてしまったアレのせいで、将臣は必要以上に精神力を使ったのだった。

(望美は気づいてねぇ…よなぁ)

気付いていたら、大騒ぎになっていたはずだ。

帰るとも言い出しかねない。

本当なら、見つけたその場でからかえば、こんなに疲れることはなかったんだと思った。

だが、将臣には言えなかった。

目が奪われるほどの色気がそこにはあった。

(リズ先生も、やってくれるぜ。)

それこそ、一時は本気で惚れそうになった女だ。

そんな女が、キスマークを付けてれば、将臣も気が気ではない。

そこかしこに、見つけてしまう、自分の目敏さがイヤになった。

(本当に、譲は来なくて正解だ。)

譲が来ていたら、きっと今晩は眠れなくなっていただろう。

そんな『女』の姿でふらふらするもんだから。

(まるで拷問だったぜ)


今晩は、俺も眠れなくなりそうだと、一人、心で苦笑した。