「うっわ~!気持ちいい!」

目の前に広がる海や、肌に触れる潮風に、望美はつい、感嘆の声をあげた。

「おい!望美!お前も荷物持てよ!」

将臣が、クーラーボックスを抱えながら、後ろから大声で呼んでいた。

「わかってるよ~。」

明るい声で答えながら、望美はパラソルを持つリズヴァーンのもとへと駆け寄った。

リズヴァーンがこの世界に来て、初めての夏。

『受験勉強には、休息も大事』とリズヴァーンを説得して、将臣を巻き込んで近くの海に遊びに来た。

「先生、何か持っていきますケド…。」

「では、これを。」

渡されたのは、『譲特製弁当』

部活で来られない譲が、わざわざ作ったものだった。

「じゃあ、早く行きましょう。」

望美は笑顔で受け取ると、白いワンピースの裾を跳ね上げながら、浜辺へと向かっていく。

リズヴァーンが、その様子に目元を緩ませながら、望美の後を追った。


三人の上では、金色の太陽と、雲ひとつない青い空が広がっていた。




≪赤い線≫




「よし!これで、終わりだな。」

すべてのセッティングが終わり、人気のない穴場スポットの砂浜が、プライベートビーチへと変わった。

「早速、泳ぎに行こうぜ。」

「今年は、負けないからね?」

シャツを脱ぎ始めた将臣に、望美が腰に手を当て宣戦布告をした。

「負けないとは?」

「毎年、あの先にある岩まで、どっちが先に着くか競争してるんです。」

望美が指で指す先にリズヴァーンが目をやると、小さな岩が見えた。

「で、毎年、望美の連敗記録が更新されてるんだよな。」

「今年こそは勝つんだから!」

「負ける気がしねぇな。」

子供のような争いに、リズヴァーンは苦笑する。

「二人とも、泳ぐ前には水分補給をしなさい。」

このまま、海に行ってしまいそうな二人に、リズヴァーンがそう諭した。

海パン姿の将臣が、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、椅子に座るリズヴァーンに渡す。

「それより、リズ先生は泳げるのか?」

「無論。」

「じゃあ、今年は先生にも参戦してもらうぜ。」

挑発的な視線を送る将臣に、リズヴァーンは不敵な笑みを浮かべた。

「よかろう。」

「あっ、じゃあ、ちょっと待ってて。私、着替えてくるね。」