月明かりに浮かぶ、微かに苦しげなその瞳。

揺らめいて輝くその髪。

戦いの中にあった頃の。生きている『あなた』。

今はもう、私の心にしかいないはずの『あなた』が、目の前で私を見つめている気がする。

あなたの瞳には『私』が映っていた。

「先…生…。」

声をかければ、そこにいるのは、あの頃の『あなた』で、私の心が震える。

初めて好きになった『あなた』を振り払えずにいる私。

ここにいるあなたは、『あなた』ではないのに。

ここにいる私も、『私』ではないのに。

わかっていても、探してしまう。

私を救おうと命を落とした『あなた』を。

想いすら伝えることが出来ないまま、去ってしまった『私』を。

初めて心から愛した人を。


「…先生、口付けをしてくれますか?」

紡ぎだされたその言葉は、誰が、誰に言った言葉なのか。

そっと、杯がテーブルに置かれた。

冷めたような仄かな明かりが、二人を映す。

『あなた』の手が、そっと『私』の頬に触れる。

壊れ物に触れるように、ゆっくりと優しく添えられる。

近寄るその顔に、『私』は目を閉じた。

「…神子。」

囁くように零れた言葉に、私は胸が締め付けられた。

『あなた』の声は、優しくて…甘い。

『あなた』の唇は、微かに震えて…暖かい。

まぶたに浮かぶのは、『あなた』だった。

今、私は『あなた』に初めて、愛される。

そして『あなた』は私の過去になった。