部屋に戻り、二人で遅い夕食を取った。

望美が風呂から出てみれば、灯りがいつもよりなく、微かな違和感を感じた。

髪を拭きながら、ゆっくりとリビングに戻ると、電気も点いていない部屋で、リズヴァーンがソファーに座って、窓の外に見える満月を眺めていた。

望美はタオルを置き、そっと近づく。

見ると、リズヴァーンは一人静かに、杯を手にしていた。

声もかけることが出来ずに、望美はゆっくりと、隣に座る。

暗い部屋に、月明かりだけが妙に明るかった。

ただ、切ない時間が流れていく。

今、あなたはきっと『私』を想っている。

あなたの腕の中で消えた、たくさんの『私』を。

あなたの愛してきた『私』を。

想う心は私にもわかるから。

せめて、今は邪魔をしたくない。


そう思っても、やっぱり寂しくて、そっと、その肩に頭を乗せてしまう。

ずるい、私。

「眠いのか?」

「まだ、眠くはないです。」

見上げるリズヴァーンの瞳は穏やかで、少し、心が痛む。

それを振り払うように、努めて明るい声を出す。

「珍しいですね。先生がお酒なんて。」

「そうだな。」

「何かあったんですか?うれしいこととか。」

そう聞いてみれば、リズヴァーンは望美から視線を外し、杯に浮かぶ満月を見つめた。

「あぁ、お前といる時間が、幸福でな。」

そう言いながら、杯を口にするリズヴァーンの姿は、昔、どこかで見たことのある仕草で。

それが、きっと真実の言葉なはずなのに、何かが隠されている気がして、微かに不安になる。

「先生…。」

小さく呟けば、ゆっくり振り向くその姿が、いつか見た夜に重なる。