「望美!何やってんだ!」

「それはこっちのセリフよ!」

望美はリズヴァーンを背に、将臣に対峙する。

微かに息の上がった将臣が、静かに望美を睨む。

「望美、邪魔だ。どけっ!」

その瞳も、話しかたも、雰囲気も『還内府』そのものだった。

一瞬、望美の胸に痛みが走る。

その隙を『還内府』は逃さなかった。

望美の脇を風が通り抜ける。

「いくぜっ!」

掛け声と共に将臣がリズヴァーンに向かい木刀を振り下ろす。

カンッ!

軽くリズヴァーンに振り払われる。

「ちっ!」

「将臣くん!こっちよ!」

不意を突かれた望美が木刀の剣先を下に、将臣に走りよる。

将臣が振り返りそうになった瞬間にリズヴァーンが将臣を捕らえ、木刀を振りかざす。


カッ!


瞬間、勝負が決まったかのように見えた。

「望美!」

声をあげる将臣の前には、リズヴァーンの木刀を受ける望美がいた。

すかさず、望美は木刀を振り払い、構えなおす。

「………。」

「………。」

二人が同じ構えで、対峙する。

いつかの出来事のように。

「…先生。引いてください。」

望美は真剣な目で、リズヴァーンの碧い瞳を見つめる。

「………。」

「………先生。」

その懇願するような響きの声に、リズヴァーンが目元を緩ませた。

「…わかった。」

ふっとリズヴァーンの気が和らぎ、構えが解かれる。

望美はその様子に、安堵と共にふっと息を吐くと、将臣を振り返った。

「まーさーおーみーくんっ!」

望美は片手に木刀を握りしめ、背中に怒る龍を背負い、将臣の前に仁王立ちした。

将臣は、はっとして後ずさる。

「まっ、待て!落ち着け、望美!」

そう声をかける将臣はもう『還内府』ではなかった。

「これが落ち着いていられると思うの!」

「だから、木刀置けって!」

「問答無用!」

望美が木刀を振り下ろす。

風を切る音だけが聞こえ、望美はもう一度、ゆっくり将臣を狙う。

「バッ、バカ!あぶねーだろっ!」

「逃げるな~!」

(黙って先生と手合わせなんて許せない!)

将臣はすばやく避けたものの、あまりの望美の形相に、逃げるに逃げられない。

さっきまで戦っていた相手に将臣は助けを求めた。

「リズ先生!望美を止めてくれ!」

「将臣くん!覚悟!」