「譲くん。」

弓道着姿の譲が望美に駆け寄ってきた。

「先輩!それはっ!」

「借りてきたの。」

譲は何より先に望美の手にしている木刀を見て驚きの声をあげた。

「どうする気ですか!」

「二人を止めてくる。」

「やめてください!危険です!」

譲が止めるのも無理もない。

あの異世界で、大きな太刀をいとも簡単に振り回していた二人である。

その剣士二人が殺気と闘志を燃やすものだから、恐怖でだれも近づくことが出来ずにいるのだ。

望美も譲も、それは肌で感じていた。

「でも、このままにしておくわけにはいかないでしょ?」

当然のように望美は呟く。

「それは…そうですけど。」

「大丈夫だよ。絶対、止めて見せるから。」

(私だって伊達に白龍の神子をやっていたわけじゃない!)

二人を見据える望美の瞳に、剣士が宿る。

「…分かりました。」

望美の決意が伝わったのか、譲が諦めたように一歩下がった。

「でも、本当に気を付けてくださいね?」

「うん!ありがとう!」

それでも、心配そうに念を押す譲に、望美はにっこりと笑って一歩を踏み出す。

望美が校庭の真ん中へと足を踏み出していくと、どんどん空気が変わってくる。

肌に感じる張り詰めた空気に、望美は少しだけ懐かしさを感じた。

異世界の戦場。

まだ、こちらに戻ってから一年と経っていない。

それでも、最近では夢での出来事のように思えてきていた。

(やっぱり、夢なんかじゃなかったのよね。)

望美はうれしくて微かに笑みを浮かべる。

手に握る剣は違うけど、それはやはり剣で。

ここは校庭だけど、目を閉じれば戦場で。

敵は…

二人!

感覚が戻るまでには時間がかからなかった。

(大丈夫!私は白龍の神子!)

そう、心で叫び目を開く。

望美は木刀を握り、振り上げ、構えた。

木刀を打ち合わせている二人の動きを望美はその瞳で捉える。

カンッ
カッ!

(飛び込むタイミングを見ないと、こっちが怪我しちゃう…)

カンッ
コッ!

二人の木刀が力勝負の如く止まった。

(今だ!)

「二人とも!やめなさい!!」

望美は駆け出す。

横は入りする存在に気付いた二人が望美の行く手で左右に分かれた。