「望美!大変!」

放課後、帰り支度をしながら友達と話をしていた望美は、その声に振り返った。

「どうしたの!?」

「あっ、有川君が校庭で、外人とケンカしてるの!」

「外人とケンカぁ?」

息を切らしながら発せられる、思ってもいない言葉に、望美は驚きの言葉を返す。

「そう!背の高い金髪の外人!」

「背の高い…。」

金髪の。

外…人?

(まさか!)

心当たりのある望美は、勢いよく窓に駆け寄り、校庭を見下ろした。

(やっぱり!)

想像通りの人と、見知った幼馴染が校庭の真ん中でなにやら棒を構えていた。

「ね?」

クラスメートが、自信ありげにこっそりと望美に目配せをする。

「何してるんだろうね?」

「降りていってみようか?」

ふと隣からもそんな会話がもれてきた。

何してる?

決まってる。

あの二人が棒なんて持って話し合いなんてするはずもない。

一人は剣の達人。

一人はガキ大将。

やることは唯一つ。

(私だって先生に相手をしてもらえないのにぃ~!)

そう思うと望美には、悔しさと怒りがふつふつとわいて来るのだった。

(よ~しっ!こうなったら…)

「…ねぇ。木刀ってどこにあるか分かる?」

望美はにっこりと友人を振り返る。

「えっ?何っていったの?」

望美は怒りを押し隠しながら、有無を言わさずに友人を連れて教室を後にした。

(待ってなさいよ~!!)

きょとんとしながらも望美と共に行く友人には、微笑む望美の後ろにある、怒る龍は見えなかったらしい…。




≪怒る白龍の神子≫




校庭に来ると運動部やその他の野次馬たちが二人を遠巻きに見ていた。

ざわめく人だかりを掻い潜り、望美は先頭に出た。

校庭のど真ん中で、西部劇の荒野を思い起こさせるほどの殺伐とした雰囲気を醸し出しながら、二人は木刀を打ち合わせていた。

「先生…将臣くん。」

望美から小さく呟かれる声はただの確認。

(ここをどこだと思っているのよ!!)

本当に言いたい言葉は心の中で抑えた。

カンッ!
カンッ!

本物の刀より鈍い音が微かに聞こえている。

それを見ながら、望美の中にふと湧き上がる思いがあった。

怒りではなく、ただ純粋に剣を振りたいという、剣士の思い。

「先輩!」

聞きなれた声に、顔を向ける。