「あっ。でも、私の指に合わせて大丈夫だったんですか?」

「それは、お前のものだ。」

「えっ、くれるんですか?」

「あぁ、そうだ。それがあれば、ここの結界に自由に出入りができる。そのための術をかけた。」

「先生の腕輪…って事ですか?」

今までは、リズヴァーンの腕輪がなければ、鞍馬の山にある結界を通ることができなかった。

「そうだ。いつまでも、私のものを持ち歩くよりは、便利になるだろう。」

「今でも、困ってませんよ?」

「…先日、朔のところに忘れてきたであろう?」

「あっ、あれは…その~、ちょこっと置いてきちゃっただけで…。」

確かに、あの日はここに帰ってくるのに苦労したけど…。

視線を合わせようとしない望美に、リズヴァーンは苦笑する。

「…ならば、その指輪はいらぬか?」

「あっ、だめです!せっかく先生がくれたんだもん。返しません!」

(はじめてもらった指輪だもん!)

離してなるものかと言わんばかりに、望美は指輪をもう片方の手で隠し、自分の胸へと引き寄せた。

「ならば、そのまま、はめておきなさい。」

リズヴァーンはそんな望美に満足したように微笑んでいた。


暫く、指輪をあれやこれやと眺めていて、望美はふと気く。

(術で大きさが変わるなら…)

「…先生。これって、中指じゃなくてもよかったんですよね?」

「そうだ。」

「あーっ。だったら違う指にすればよかった!」

つい、思っていたことがそのまま口に出てしまい、望美は咄嗟に口を手で塞ぐ。

「何故だ?」

それを、リズヴァーンが聞き逃すこともあるはずがなく、真剣に聞いてくる。

「べっ、別にたいしたことじゃないんです。」

ちょっとした考えが頭に浮かんだだけなのに、望美には、頬が熱くなっていくのがわかった。

「…話してみなさい。」

「………。」

少しの間、黙ってはみたものの、リズヴァーンとのにらめっこを続けるわけにもいかず、望美は小さな声で白状した。

「…左の薬指にすればよかったなぁって思って…」

「何か…意味があるのか?」

(えっ!やっぱり、それも言うの?)