戦いも終わり、山で暮らし始めて数ヶ月がたった。

リズヴァーンとの生活には戸惑いもあったけど、何とか馴染みはじめていた。

好きな人との生活。

平和な日々。

優しい時間。

『鬼』のそばに『人』を置くことを、最後の最後まで拒もうとしていたリズヴァーンが、今では望美がそばにいることを許そうとしている。

この世界に来て、求めていたものがここにはそろっていた。

でも、望美にはひとつ気がかりなことがある。

今の先生にとって…私は何?

神子?

弟子?

恋人?

自分のいるべき場所が曖昧すぎて、不安を覚える。

(私はここにいていいの?それとも…。)




≪手品のタネ≫




望美は、いい天気だったので、縁側で仰向けになって目を瞑っていた。

(気持ちいい…。植物になったみたい…。)

「寝ているのか?」

上から、リズヴァーンの声がしたのでゆっくりと目をあけた。

「…起きてます…。」

(うとうとは、してたけど…)

「そうか。」

そういうと、リズヴァーンは望美の横にゆっくりと腰を下ろした。

眠い目を何とか擦ってリズヴァーンを見上げるが、いつもある微笑みが見られなかった。

「…先生、どうかしたんですか?」

なんとなく、いつもと違う様子に、望美は髪を整えながらのんびりと起き上がった。

その瞳を覗き込めば、珍しく戸惑いを目に映しながら、リズヴァーンが口を開く。

「…神子、今からお前に術をかけるが、…よいか?」

「えっ…術ですか?」

いきなり、「術」と言われて、望美はびっくりした。

(術って…)

とっさに浮かんだのは、黒洞閃影。

(あっ、あれを私にかけるの!?何で!?)

疑問がすぐに口に出た。

「…それって、何かの修行ですか?」

(術をすばやくよける修行とか…。)

(それとも、私、何か先生を怒らすことでもしちゃったとか?)

寝起きの頭で、ぐるぐると考えを廻らす。

リズヴァーンは怪訝そうな顔をして、望美を見た。

「…何を考えているのだ?」

「黒洞閃影って当たったら、痛いのかなぁ…って…。」

「………。」

(あっ、今、先生呆れた)

「違うんですか?」

「違う。…そもそもあれは、お前とでなければ発動はせん。」

(…そういえば、そうだった。)

寝ボケていたのか、平和ボケしていたのか、基本的なことをすっかり忘れていた。

リズヴァーンがゆっくり息を吐き、慎重に言葉を紡ぐ。