「――律人」

奈津が名前を呼んだと思ったら、俺の手を握った。

「私、今すっごく幸せ」

そう言った奈津の顔は、夢見心地だ。

「目が覚めたら、本当は夢だったんじゃないのかなって」

そう言った奈津に、
「夢じゃないよ」

俺は返した。

今日の出来事は、決して夢になんかさせない。

だって、
「本当に夢だったら、俺たちは一緒じゃないじゃん」

俺は奈津に言った。

奈津が先生じゃなかったら、奈津が人妻じゃなかったら、それはどんなにいいことかと思う。