「律人、です」

俺は自分の名前を言った。

「俺の名前は、律人です。

藤森じゃないです」

奈津に自分の名前を呼んで欲しい。

彼女に俺の名前を呼んで欲しい。

こんなにも自分の名前を誰かに呼んで欲しいと思ったのは、生まれて初めてだ。

奈津が俺と目をあわせる。

「――律人…」

奈津の唇が動いて、俺の名前を呼んだ。

温かかった。

名前を呼ばれただけなのに、心の中がすごく温かかった。

そっと、俺は奈津の頬に触れた。