母は悶えるでも、痛みに叫ぶでもなく、そこに佇んでいた。
どうして…?
しかしセルマの声は届かない。
ここから離れて。
どこか、遠くへ逃げて。
「そんな…嫌…」
お願い。あなたはあなた自身を守って。
村人は母に恩がある者が多いためか、必死に涙を堪えて、母の行く末をしっかりと見つめていた。
母を支える木が燃えて倒れようとしている。
倒れてしまえば、母にはもう会えない。
近くに目を逸らすと、父の首。
もう望みはない。
行って、セルマ!!
母が、傾き始める。
その最後を見る前に、セルマは背を向けてその場から逃げ出した。



