いや、気のせいではないようだ。 本当に人がいない。 その時、短く悲鳴が聞こえた。 息を整える間もなくそっちへ走る。 村の広場だ。 そこに大勢の人が集まっている。 悲鳴は断続的に聞こえている。 セルマにはそれが誰かもうわかっていた。 広場に出て、初めに目に入ったのは…緋の色。 昼間かと思うほどの赤。 その中で、十字に磔にされた人のシルエット。 「…っ、ぅぁ」 ダメよ。叫んだら…ダメ。 母の厳しい声が聞こえた。 涙ながらにまみれた顔を上げると、炎に包まれる母と目が合った…気がした。