いつもなら、もう夕食の準備をしていて、その匂いがここまで漂ってくるはずなのに。 おかしい。 一体、何が――? そう思ったとたんに、手のひらにじっとりとした嫌な汗が滲んだ。 この間凄惨な歴史の本を読んだせいだろうか。 嫌な予感が泡のように浮かんでは消えていく。 セルマは足を早めた。 しかし、それと同じように我が家に限ってとも思う。 きっと扉を開けば父が驚いて顔を上げて、母がどうしたの、と笑いながら出てくるに違いない。