振り向くその人は、この国の人間なら誰しもが知っているその人で。
紅い髪が揺らめき、細い目が私を見据える。
手に握られた刃には、それよりも生臭く、ドロリとした緋色に染まっていて。
────!!
震えもなにも消え失せて、私はその場に立ち尽くすしかなかった。
その後ろには手を染める色と同じものがたくさん広がっていたのだから。
紅い化身。この国の王として君臨している赤が。
「じ、ジュダス様…こ、これは…一体…」
しかし、かかる声も届いていないのか。
その眼はうつろに私を映すばかり。
「来なければよかったものを…」
ユラリ、遅く見えた動きは私の目の錯覚だったのか。
気づけばすぐそばにジュダス様がいて、刃を私の首元にあてた。
「ジュダスさ、ま…」
けれども変わらぬ瞳の色。
どこか虚ろ。空虚で、私は震えながら見つめ返すことしかできない。
「どう…して、こんな? アイリーン様、は…」
「…?」
──…違う
僅かに傾げた首。
それがパニックを起こしかけても警鐘を鳴らしていた違和感の招待だと気づく。
──ジュダス様がアイリーン様をお忘れになるはずがない──



