雫-シズク-

意識的に数回深呼吸をしてぐいっと汚れたあごを拭った俺は、最後に大きなため息をつき立ったまま壁に寄りかかった。


ちょうどドアのすき間から見える窓に、欠けた月がぼんやりと白く浮かんでいる。


「……お前は気楽でいいよな」


涙をにじませながらも変に冷静なのは、この行為にすっかり慣れてしまったせいだ。


さすがに毎日何度もトイレや洗面所に張り付いていると、自分は一体どうなってしまったんだろうという不安よりも面倒臭さに苛付いてしまう。


ところ構わず襲ってきて貴重な時間を乱暴にさいていくこの不自由な体が憎い。


「こんな事をしている暇なんかないのに」


ゆらりと壁から体を離して月の瞬きをさけるように背中を丸めると、俺は重い足取りでまた暗闇に消えていった。