雫-シズク-

そしてかちかちかちっと伸ばした刃先にうっとりと目を細めた。


嫌なことは、忘れてしまえばいい。


俺は長い傷跡を強くなぞろうとゆっくり肩に刃を近付けた。


でも。


気持ちとは逆にその近付けた右手が急にぶるぶると震え出してしまった。


「くそっ、なんだよ!?」


勝手に動く手に力を込めて何度も傷口を刺そうとしたけど、痙攣したみたいに止まらないせいで刃先が全然定まらない。


「ちくしょう!!」


腹が立った俺は言うことを聞かない手を振り上げて、カッターを力いっぱい壁に叩き付けた。


がしゃんっと大きな音がして割れた破片が勢いよく飛んでいく。


俺はぎゅっと右手を握りしめて思いきりかばんを一発殴り付けた。