雫-シズク-

……葵さん、俺やっぱ間違ってる?医者なんてどうやったって無理だと思う?


心の中で問いかけてみたけど答えなんか返ってこない。


……煙草吸いてぇ。酒飲みてぇ。……腕、切りてぇ。


目標を見付けてからきっぱりとやめたはずなのに、現実逃避のために繰り返してきたそれらが無性に恋しくなってくる。


苛々して全然すっきりしない気持ちを持て余した俺は、左腕のジャージのそでを乱暴にまくり上げた。


そこには引きつった赤黒い蛇が誘うように浮かび上がっている。


……しばらく切ってないから、かなり血が出るだろうな。


だらだらと垂れていく赤い涙を思い返すだけで、背骨の奥にぞくぞくっと刺激が走った。


この胸にたまったよどんだものを吹き飛ばすのなんて、簡単なことだ。


すぐに机の引き出しを開けて久しぶりに握ったカッターと腕の傷を交互に見比べる。