すると大宮さんが下を向いたままぽそりと呟いた。


「……こんな年寄りなんかより、……先に死んじゃいかん。生きなきゃいかんよ」


まるでなにかに願うような口調に俺は思わずぐっと唇を噛みしめた。


「……はい」


いつもにこにこしている大宮さんも、傷を隠して生きてるんだ……。


そう実感して胸の奥に締め付けられるような痛みを感じながら、無言で折り込み作業を終える。


そして配達に出るために束ねた新聞を自転車へくくりつけた。


「それじゃ、行ってきます」


「はい、気を付けて」


いつもの短い会話のあと店を出ようとした俺は、ふと足を止めて大宮さんの方へ振り返った。


「あの、配達終わったら、お茶いただいてもいいですか?」


そんな俺のたどたどしい言葉に一瞬目を見開いた大宮さんが、一度だけ大きく頷く。


目尻を下げて口元をほころばすその表情は、顔中に深いしわを優しく刻んで、すごくあったかかった。