雫-シズク-

何度も心の中で確かめるたび二人の泣き顔が脳裏に浮かぶ。


……葵さんも、それでいいのか?


そう葵さんに呼びかけた時、突然聞き覚えのある低い声が俺の耳元にはっきりと届いた。


『しっかり、生きろよ』


きつく閉じていた涙で濡れる目をはっと見開いて声のした方に視線だけ動かしたけど姿は見えない。


でもずっと忘れたくても忘れられずにいた懐かしいその声の主は、間違いなく。


……葵、……さんっ!


体中を押さえ付けられて苦痛でしぼり出されていた温度のない涙に、すうっと温もりが加わる。


葵さんっ、葵さんっ!葵さんっ!!


俺は必死に葵さんを呼び続けたけど、もうあのぶっきらぼうで優しい声は二度と聞こえてはこなかった。