母親が引き取りを拒否した葵さんの遺品は、部屋のあちこちに残されたままになっている。


持ち主を失って行き場をなくした漫画や教科書は段ボールに入れられてすみに置かれて、のちのち他の子供達に必要になる制服や衣類などは手付かずで整理もされていない。


時々、卒園して自分が使っていた物を学園に寄付する人達がいたから珍しい光景じゃないけど。


そしてあの日、俺は病院から帰ると桜井さんから他の部屋に移ることをすすめられた。


血痕も匂いも抜け切らないし、ちょうど空いている部屋もあるからと。


さすがにあんなことのあった場所に、それも唯一の目撃者の俺を戻すのは良くないと気を使ったんだろう。


しばらくは物置として使うことにするとも言っていた。


それを聞いた時、俺の頭には少しだけ淋しそうな葵さんの姿が浮かんだ。