雫-シズク-

葵さんがすぐ近くにいる……!


そう思った俺は点滴の針をちぎるように引き抜いて、驚く桜井さんと坂井さんの横をすり抜け病室を飛び出した。


後ろで俺の名前を叫ばれたけど、それをはねのけて前へと進む。


葵さん、大人はどうして悲しまないの?


この世から命が消えたのに、もう二度と会えない別れなのに。


俺は坂井さんが言っていた突き当たりの病室へと、人気のない静かな廊下を全力で走った。


自分の息遣いと心臓の音だけがやけに耳に響く。


突然の全速力に体中の筋肉がばらばらになりそうで足がもつれたけど、俺の目には一番遠い扉しか映っていない。


大切な人のいる場所しか。


誰にも泣いてももらえない死を葵さんは望んだの?