俺の思考が停止している間に坂井さんが素早く行動を起こし始めた。


険しい表情で仰向けの葵さんの顔の横に座って血まみれのあごを引き上げると、額側の手で鼻を塞ぎふううっ、ふううっと二回息を吹き込んでいる。


そしてひじを伸ばして胸の真ん中辺りを一定のリズムで何度も押す。


そんなテキパキとした坂井さんの動きに冷静さを取り戻した俺は、必死に葵さんに呼びかけた。


「葵さん!死んじゃ駄目だよ!お願いだから息をして!」


一生懸命心臓マッサージを続ける坂井さんも叫んでいる。


「佐伯!佐伯!」


そんなことを繰り返しているうちに遠くで救急車のサイレンが聞こえ始めていた。


白くて重たい空に響くその音が歯がゆいくらいゆっくりと近付いてくる中で、俺は自ら消えようとしている命の灯にただひたすらしがみつき続けることしかできなかった。