雫-シズク-

「こんな時間に……」


どうしたの?と言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。


それまでずっと冷たい態度を取っていたから、いきなり普通に話かけることに戸惑ったからだ。


思わず手で口を押さえてまごまごした俺に葵さんが俯いたまま小声で言った。


「お前、今日何時頃帰ってくる?」


「え?あ、うーんと土曜だから昨日より早いけど……」


そうかと呟いてやっと振り返って笑った葵さんの顔が、暗くてちゃんと見えないせいかもしれないけど俺には泣いているように見えた。


そんな淋しそうな雰囲気を初めて感じ取ると、明日の別れが急に辛くなってくる。


今までどうして葵さんがいつも通り態度を変えなかったのか、少しだけわかった気がした。