雫-シズク-

その聞き覚えのある声は父親のものだけど、昔と違って耳にこびりつくみたいにひび割れている。


急に動くようになった両手で耳をふさいだ僕は、転びそうになりながら部屋を飛び出した。


「いやだ!聞きたくない!」


うしろから父親の狂った笑い声が僕を追いかけてくる。


僕は目に飛び込んできたもう一つのドアを必死に押した。


また大きな音を立ててゆっくりと開くドアに歯を食いしばる。


やっと通れるくらいのすき間から体を入れると、なにかをふみそうになって小さな悲鳴をもらした。


見たことのある血まみれの人影にどくんと痛いくらい心臓が鳴る。


これは、まさか、まさか……。


目をいっぱいに開けてはぁはぁと肩で息をしていると、うつぶせらしい影がむくりと頭を上げた。