コーヒーを一口飲むと父さんは顔を綻ばせて「上手いな」と呟く
嬉しそうに笑う幸弘がなんだか新鮮で、俺まで嬉しくなる
父さんはカップを丁寧に置くと少し複雑そうな笑顔をつくった
「今、暮らしているんだろ?
………“つーちゃん”と」
問いているはずなのに核心的なのは隣に座る秘書の情報を聞いているからだろう
今、学校で頑張って授業を受けているだろう彼女を思い浮かべるとつい、笑みが溢れる
「ああ、暮らしてるよ。翼とね」
「――そうか、うん。よかった、うん」
ホッとしたように微笑む父さんは突然頭を下げた
「ごめんな…、あの事故のあと調べてつーちゃんが生きてることがわかったんだが…」
一瞬口ごもった父さんは短く息を吐くと言葉を続ける
「慎が失語症になって、記憶が改竄されたときに、母さんも相当ショックが大きかったんだ」

