よろず屋本舗。





入学式当日、保健室の窓から見えた人は、たぶん先輩だったと思う。


肩に届くくらいの黒髪を風に乗せ、ヘッドフォンをつけた横顔がすごく綺麗だったことを憶えている。

話しかけた記憶はないし、保健室の窓を開けていた記憶もない。

けれど不意にこちらを向いたその人に驚いて、おれは思わず窓の影に隠れてしまった。

少ししてから顔を出すと、まだその人はこちらを見ていて、今度はばっちりと目が合ってしまった。

目を逸らすタイミングを逃して、そのまま動けなくなってしまったおれに、その人はフッと笑った。

笑うと綺麗というより、可愛いなあと、思った。

その人は一瞬笑った後、何事もなかったように回れ右をして、学校から出て行った。

どこの誰だろう、としばらく考えたけど、やめた。

思えば、同じ学校のセーラー服を着ていたのだ。

もしかしたらまた会えるかもしれない、という希望が、確実にあったからだった。