正直に言うと、一度だけ。


ほんの一瞬でもいい、あの時に戻りたいと思った。






―そんな夢の話―






どうしよう、描けないかも。

画用紙をもう何枚も使ってアイデアを捻り出してみても、これ!と思ったものが描けない。

講義が終わって、そのまま大学で描いてたけど描けなくて、家に帰ってミルクティーを飲みながら描いても描けなくて。

ファミレスでも喫茶店でも、図書館でもダメなのだ。

こういう時、私が一番描ける場所。それを私はもう知っている。

そう思ってからは早かった。


画用紙と鉛筆を鞄に放り込んで、バタバタと慌ただしく部屋を出ていく。

時刻は夜の8時。まだ寝てないはず。

駅を出て目的地の方向へ走る。

早く早く。早く会いたい。

見慣れた4階建てのアパートに辿りつき、階段を駆け上る。エレベーターなんてないのだ。

4階の奥から2番目の部屋。

そのドアの前に辿りついて、表札を見て私はホッとする。着いた。

思い切ってドアを開けようとして、ドアノブを捻ったところで「あ」と声を上げた。

鍵が開いてない。

そしてしまったことに、私も貰った合鍵を忘れてきてしまった。

唐突に寂しくなる。うぅ、早く会いたいのに。