永瑠ちゃんはその後、「あ、そ、そうだった、オレ今日晩御飯作らなきゃだった…!」と言って、私に何度も謝りながらバタバタと帰って行った。
私はその後姿に手を振った。
それから、彼女が居なくなった教室を、ずっと眺めていた。
教室の隅。角っこの席。
そこに座る物静かで無表情、無口なクラスメイトの女の子は。
たぶんきっと、いや、絶対。
とてもいい子で、とても面白くて、そしてとても――。
「……いつか友達に、なれないかなあ」
私はぼそりと、そうつぶやいて。
夕日に染まる教室の中、ひとり、帰り支度を始めた。
【end】