高橋はしばらくしぶっていたが、渡辺先輩の押しに負け、「じ、じゃあ教えてもらいに行きます」と折れた。


「神坂さんどこに居ます?」

「今ねー美術室で眠ってると思うよ?」


ケロッとした顔でそう言った先輩に、対する高橋はまたも全動作を停止した。


「ねむ、ってる……だと……?」

「そうそう!ほら、早く行っちゃいなよ少年!」


動揺する高橋とは真逆に先輩は心底楽しそうである。

神坂レイと付き合っているというのに、いまだ女性に免疫が足りない高橋。腐れ縁だから言えるが、俺もお前も男子校に通ったことは一度としてないはずだが。

小中高と全部共学だったんだからいい加減どうにかなれ、と割と本気で思う。

思うので、ヤツの足を軽く蹴った。


「いいからさっさと行け。馬鹿な上にヘタレの称号もつけんぞお前。」

「さ、坂本の口調が変わってきているこれはヤバい……」


さすが腐れ縁は伊達じゃなかったか。

高橋はぐすぐすと鼻をすすりながら鞄を手に取り、「では逝ってきます…」とか言いながら教室を出て行った。死んでどうする。

渡辺先輩は窓枠から身を乗り出し、「いってらっしゃーい」と手を振った。

足音が遠ざかると、渡辺先輩は「ふう」と息を吐いた。


「……大変だねー、坂本クンも」


笑い交じりにかけられた言葉に、俺は先輩を振り返る。

渡辺先輩は目が合うと、ニコリと笑った。