ちなみに神坂レイとは高橋の彼女である。容姿端麗、頭脳明晰の完全無敵の美少女だ。

春にあれこれと事件があったものの、解決したその後は神坂レイも警戒心を解き、周りと少しずつ打ち解けているようだった。

高橋はひとしきり二十面相した後、ガバッとこちらに身を乗り出した。寄るな。


「やっぱムリだわ神坂さんに教えてもらうとかマジでムリゲーだわ坂本頼む!」

「断るっつってんだろ。」

「だってなんかすげえカッコ悪くね!?女の子に勉強教えてもらうとかカッコ悪くね!?」

「お前の頭が残念なんだ、致し方あるまい。」

「さーかーもーとーッ!!」


ぶわっと泣きながら(比喩)高橋は俺の肩を掴んでこれでもかというくらいに揺らしてくる。

あーもーめんどくせーなと思う。とりあえず手を離せ。そして机から降りろ。



「いいじゃん女の子から勉強教えてもらっても」


不意に聞こえてきた声は、どこからどう聴いても「なんで?」と言いたそうな色が混じっていた。

その声にピタリと動作を止めた高橋が、机の上に正座したまま渡辺先輩を振り返る。

つられて俺も振り返った。


「いいじゃん別に。気にすることなの?」

「え、いや、俺は気になったというか……?」

「そうなの?別にカッコ悪くないと思うけどなあ。あたしは」

「えー……」

「高橋くんは、ちゃんと神坂レイちゃん守ってるでしょ?たまにはお返ししてもらいなよー!」