「……おれ、あと1年早く生まれたかったです」
そしたら、キョウちゃん先輩と一緒に卒業できたのに。
「……そっか。」
先輩はたっぷり間を開けて、相槌を打った。
夕焼けが射し込む。先輩の背中が茜色に染まった。
「……あのさ、春人。」
「……はい」
「あんた知らないだろうから、教えといてやろう。」
「…………」
「お前のクラスの連中はすさまじく優しい。」
「……え」
「あたしがこの保健室に来るとき、いつも寄ってくるんだよ、お前のクラスメイトがさ。んで、いっつもこう聞いてくるの。」
「…………」
「“春人くん今日、体調どうですか?”って。」
そんなの全然、知らなかった。
「元気ですか、とか。勉強追いつけてますか、とか。たまにノート貸してくれる子も居たよ。あたしはそれを使って春人に勉強教えてた。」
「……そう、だったんですか」
「うん。だからさ、あたしいっつも言ってたんだよ、その子等にね。会いに行ってあげなよって。でもさ、14歳じゃん。わかるんだよね、会いに行けないその感じ。照れ臭いんだよ、みんな。」
「…………」
「誰かが先陣切ってやんなきゃ、たぶん誰も勇気が出ない。だから春人、お前に指令。」
「……指令」
「そう。あたしが卒業したら、一回、体調がいい時でいいから、教室に行ってみな。そんで挨拶すんの、みんなに。おはよーって。」
「……挨拶、ですか?」
「それだけでたぶん、保健室での1日は変わってくるかもよ。」
言いきって、先輩はおれを振り返った。
横顔が、夕日に照らされて、綺麗だなあと思った。


