「桜だ。」
どぎまぎしているおれにはたぶん気づいてない先輩の声。
その声はたしかに、“桜だ”と言った。
おれは顔を先輩のほうへと向ける。先輩は窓に手を乗せて外を見ていた。
「……桜、ですか?」
「そう桜。そろそろ咲きそうだなと思って。」
ほら。と、先輩がおれを見下ろしながら、窓の外に人差し指を伸ばしてみせた。
その人差し指につられるようにして、おれは起き上がる。
先輩と同じように、窓に手を載せて外を見た。
そこには1本の大きな木があった。
保健室によく通っているおれにとっては見慣れた風景だったけど、それでも季節が巡るごとに、あの木はいろんな表情を見せてくれた。
だからあの木が、桜の木だということはおれも知っている。
何年前からあるのか、しっかしとした幹から伸びる枝。
遠目からでもわかる。ほのかに色づく桜の蕾があった。
「……ホントだ!」
「な。あれそろそろ咲きそうじゃね。」
「そうですね~最近あったかくなってきましたし!」
「でもまだ3月頭だぞ早すぎだろ。」
「気が早いんじゃないですか?」
「木だけにか。いや上手くねえよ。」
自主ツッコミをするのは先輩のクセなので、おれは笑う。
笑いながら「上手いです!」と言うと、先輩は「お前は芸人殺しか。」と言った。


