「……あれ、そういえばカイト、今日バイトは?」
しゃがんだままの千早が、こちらを見上げて尋ねてくる。
俺は目線を外へと向けたまま、頭を僅かに千早のほうへと傾けた。
「今日はないよ」
「あ、そうなんだ」
「千早は?」
「あたしも今日はないんすよー」
「そっか」
「うむ」
会話が途切れる。
どこかでクラクションの音が響く。
「……雨、やむかなあ」
千早は屋根の向こう側を見つめ、つぶやく。
「……さあ、どうだろ」
同じ方向を見やりながら、返答する。
梅雨の雨はなかなかにしつこい。
やまなかったらどうしようか。
頭の片隅でそう考えてみるけれど、まあいいか、と思考を諦める。
やまなかったらそれでもいいし、その時はどうにかするだろうと思うし。
なによりこの空間が、どういうわけか居心地がいいし。
忘れた傘。
続かない会話。
しっとりと肌にはりつく空気。
隣から聞こえてくる、小さな鼻歌。
あぁ、なんだっけこの歌。
聞いたことあるような気がするんだけど。


