「大丈夫?」

男は何事もなかったかのように、朝日に歩み寄って手を差し伸べた。

「……あ、はい。」

「"桜組"に目をつけられた以上、多分ここじゃもう普通にはやっていけない。君が良ければ…日本橋に移らないかい?」

騒ぎを聞き付け、集まった人達が人だかりをつくり、周囲は異様な騒がしさを擁していた。

「……あたしは…」

「なんの騒ぎかと思ったら…」

人々のざわめきを切り裂くかのように、低く、よく通る声が聞こえた。

観衆が割れ、そこに現れたのは、浅黒い肌で黒のスーツに身を包んだ、背の高い坊主頭の異丈夫。

そしてその脇には少し劣るが長身で、金色の長髪、これまたスーツを身にまとった端正な顔立ちの美男子。

逆側には二人とならんで背の低さが異様に強調された、同じく金髪で髪をツインテールに結んだ可憐な少女。

「……三蔵だ。」

「"漆黒僧"桜 三蔵だ。」

「"夜の妖蝶"桜 四郎もいるぞ。」

「"幼女帝"桜 従子(ジュウコ)まで…」

異様なざわめきを、再びあの声が切り裂いた。

「…頭が高い。」

刹那。

真ん中の男、三蔵の声に呼応するかのように、観衆がすぐさま膝まづいた。

中にはその迫力に気絶するものまでいた。

「……"イージス"の"蒼眼(ソウガン)"木村 枢(クルル)だな。」

再び三蔵が声を発する。

先程の命令に従わず、平伏す観衆の中唯一直立する男へと。